『クチナシ』/馳平啓樹

日常の中の素朴な感情を丁寧に紡ぎ上げることができる彼が、人間の嫌な部分を描くとここまで陰鬱になるのか。小説家ってすごいな。人生の中で目を背けたくなる部分ていうのは確実に存在しているけれど、そればかりが人生になるなんてなんたる地獄だろう。やけくその末に自尊を放棄した最後の開き直り、それがハッピーエンドなんてとても思えない。いやぁ、不快なものを読んだわ。しかしこの人の文体、世界観は相変わらず好き。