『その夜の侍』

事故死した妻の復讐に取り憑かれた男の話。こんなエピソードを聞いて、わざわざ憂鬱な思いをしに映画館に行きたいと思ってしまうのだからどうかしているなと思う。しかしこの作品は面白かった。作品にのめり込んで、持ち込んでいたコーヒーに一度も口を付けなかったくらい。そののめり込みの要因は、復讐の顛末がどうなるか気になるという点もあるが、何より山田孝之の怖すぎる“怪演”が一番である。
“悪”としか言いようがない山田孝之に一時も目が離せず、恐怖を感じながら夢中になっていた。『黄金を〜』の妻夫木聡とは真逆で役を存分にこなしていたと思う(『黄金を〜』の場合は妻夫木聡の所為というよりも単なるキャストミスの気がするが。妻夫木聡に非はない)。
この作品は終始重い。復讐劇に、悪魔のような人間。加えて、中年男性と警備員(谷村美月)の描写は、現代人の孤独はここまで倒錯するほどのものなのかと溜息をつかざるを得ない。
人間の闇の部分しか描いていないからさぞ嫌気が差すだろうと思うかもしれないが、エンターテインメントに昇華しているのか(無知な自分にはよくわからないが)広くオススメできる作品だと思う。面白かった。二度目は観たくないけどね。